この記事のポイント:iPhone・Androidには聴覚に関するアクセシビリティ機能が標準で備わっています。この記事では、具体的な設定手順とともに各機能を紹介します。ただし、これらの機能にも限界はあります。できること・できないことを正直にお伝えしたうえで、補助的に使えるアプリについても触れていきます。

日本の聴覚障害をとりまく現状

厚生労働省「令和4年生活のしづらさなどに関する調査」によると、聴覚障害で身体障害者手帳を所持している方は全国で約34万人です。ただし、これは手帳の交付基準(両耳70dB以上等)を満たした方の数にすぎません。

日本補聴器工業会のJapanTrak 2018調査では、自分が難聴だと感じている人は国内推計約1,430万人(人口の約11.3%)という結果が出ています。手帳を持たない軽度・中等度の難聴者、加齢による聞こえにくさを感じている方を含めると、「聞こえ」に何らかの困りごとを抱えている人はかなり多いのが実情です。

WHOも2021年の「世界聴覚報告書」で、2050年までに世界で約25億人(4人に1人)が何らかの難聴を抱えると推計しています。高齢化が進む日本では、この問題は今後さらに身近になっていくでしょう。

こうした背景のなかで、スマートフォンのアクセシビリティ機能は年々充実してきました。万能ではありませんが、知っておくと助かる場面は確実にあります。

iPhoneの聴覚アクセシビリティ機能

iOSには聴覚に関する設定が「設定」>「アクセシビリティ」の中にまとめられています。以下、実際に役立つ機能を設定パスとともに紹介します。

ヘッドフォン調整

設定パス:設定 > アクセシビリティ > オーディオとビジュアル > ヘッドフォン調整

AirPodsやBeatsなど対応イヤホン使用時に、音の出力を聴力に合わせて調整できます。「バランスの取れた音調」「声域」「明るさ」の3つのプリセットがあり、iPhoneのヘルスケアアプリに聴力検査(オージオグラム)の結果を入力すると、それに基づいたカスタム調整も可能です。

注意点として、対応しているのはApple製・Beatsの一部イヤホンに限られます。サードパーティ製のイヤホンでは使えません。また、あくまで音の出力バランスを調整する機能なので、重度の難聴を補うものではありません。

ライブキャプション

設定パス:設定 > アクセシビリティ > ライブキャプション

iPhoneが拾った音声をリアルタイムでテキスト化して画面に表示する機能です。FaceTime通話、動画再生、対面の会話など幅広い場面で使えます。テキストはフローティングウィンドウで表示されるため、他のアプリの操作中でも確認できます。

日本語にも対応していますが、認識精度は話者の声質・速度・周囲のノイズに左右されます。静かな環境での1対1の会話では実用的ですが、複数人が同時に話す場面やBGMが大きい場面では精度が落ちます。過信せず、重要な情報はテキストでの確認を併用するのが現実的です。

サウンド認識

設定パス:設定 > アクセシビリティ > サウンド認識

iPhoneのマイクが周囲の特定の音を検知し、通知で知らせてくれます。認識できる音の例:

  • 火災報知器・サイレン
  • ドアベル・ノック音
  • 赤ちゃんの泣き声
  • 犬や猫の鳴き声
  • 家電製品の音(電子レンジの完了音など)
  • 水の流れる音

iOS 14以降で利用可能で、「サウンド」から通知したい音を個別に選べます。一人暮らしの方にとって、ドアベルや火災報知器の検知は安全面で心強い機能です。

ただし、機械学習による認識のため誤検知もあります。テレビの効果音をドアベルと判定する場合などがあり、完璧ではないことは理解しておく必要があります。

LEDフラッシュ通知

設定パス:設定 > アクセシビリティ > オーディオとビジュアル > LEDフラッシュ通知

着信や通知があったときにカメラのLEDフラッシュを点滅させます。シンプルな機能ですが、通知音が聞こえない状況では確実に役立ちます。サイレントモード時のみフラッシュする設定も選べるので、普段は音で気づけるけれど静かな環境では見逃すことがある、という方にも向いています。

モノラルオーディオと左右バランス

設定パス:設定 > アクセシビリティ > オーディオとビジュアル > モノラルオーディオ

ステレオ音声を左右統合して片方のイヤホンからも全ての音が聞こえるようにします。片耳難聴の方にとっては、ステレオのままだと片側のパートが聞こえなくなるため、この設定が有効です。左右の音量バランスをスライダーで調整することもできます。

Made for iPhone 補聴器対応

設定パス:設定 > アクセシビリティ > 補聴デバイス

MFi(Made for iPhone)認定の補聴器とBluetooth接続でき、通話や音楽を補聴器に直接ストリーミングできます。iPhone側から補聴器の音量調整やプログラム切り替えも可能です。フォナック、オーティコン、リサウンドなど主要メーカーが対応していますが、対応機種は補聴器メーカーの公式サイトで確認してください。

Androidの聴覚アクセシビリティ機能

Androidもアクセシビリティ機能を充実させています。ただし、メーカーや機種によって搭載状況に差があります。以下はGoogle Pixelシリーズを中心とした説明です。他メーカーの端末では設定パスや利用可否が異なる場合があります。

音声文字変換(Live Transcribe)

設定パス:設定 > ユーザー補助 > 音声文字変換

スマートフォンのマイクで拾った会話をリアルタイムでテキスト化するGoogleのアプリです。80以上の言語に対応しており、日本語の認識精度も実用的なレベルにあります。

特徴的なのはリバースモードで、会話相手がテキストを入力して自分に伝えることができます。病院の受付、役所の窓口など、正確なやりとりが求められる場面で筆談代わりに使えます。

ただし、インターネット接続が必要です。また、専門用語や固有名詞の認識には限界があるため、名前登録機能を使って精度を補うことをおすすめします。

自動字幕起こし(Live Caption)

設定パス:設定 > ユーザー補助 > 聴覚補助 > 自動字幕起こし

端末で再生されるメディア音声に対してリアルタイムで字幕を生成します。動画、ポッドキャスト、音声メッセージなどが対象です。処理はすべて端末上で行われるため、インターネット接続なしでも動作し、音声データが外部に送信されることはありません。

音量ボタンを押して表示されるパネルからワンタップで切り替え可能です。YouTubeで字幕が用意されていない動画などでも使えるのが便利です。

音検知通知(Sound Notifications)

設定パス:設定 > ユーザー補助 > 音検知通知

周囲の重要な音を検知して、振動・画面の点滅・通知で知らせます。煙感知器のアラーム、ドアベル、赤ちゃんの泣き声などを認識できます。音声データはデバイス上でローカルに処理されるため、プライバシーの心配はありません。Google Pixelシリーズにはプリインストールされています。

Sound Amplifier(音増幅器)

設定パス:設定 > ユーザー補助 > Sound Amplifier

スマートフォンのマイクで拾った周囲の音を増幅してイヤホンに出力します。静かな音を大きく、大きすぎる音は抑制する処理が入っています。左右の耳で異なる増幅設定を適用できるため、左右差のある難聴にも対応できます。

補聴器の代わりになるかというと、なりません。あくまで一時的な補助として、たとえばテレビの音を聞きやすくしたいときなどに使う機能です。

フラッシュ通知

設定パス:設定 > ユーザー補助 > フラッシュ通知

着信や通知時にカメラのフラッシュまたは画面を点滅させて知らせます。カメラフラッシュと画面フラッシュは個別に設定でき、併用も可能です。

聴覚障害者の生活を助けるアプリ

OS標準機能に加えて、以下のアプリも選択肢になります。万能なアプリは存在しないので、自分の用途に合ったものを選んでください。

アプリ名 主な機能 対応OS 日本語対応 料金
VoicyCare 音量増幅・イコライザー iOS 対応 無料
UDトーク 音声認識・文字起こし iOS / Android 対応 無料/有料プラン
Google Live Transcribe リアルタイム文字変換 Android 対応 無料
Otter.ai AI文字起こし・要約 iOS / Android 英語中心 無料/有料プラン
Sound Alert 環境音検知・通知 iOS / Android 対応 無料/有料プラン

VoicyCare -- 開発者として伝えたいこと

VoicyCareは私たちが開発している音楽プレイヤーアプリです。最大200%の音量増幅と5バンドイコライザーを搭載しており、端末内の音楽ファイル(MP3/FLAC/AAC/WAV等)を再生できます。

開発のきっかけは、加齢性難聴のある家族が「好きな曲の歌詞が聞き取れなくなった」と話していたことでした。iPhoneの音量上限では足りず、イコライザーで中高音域を持ち上げると歌詞が聞きやすくなった、という体験からアプリの構想が始まりました。

率直に言うと、VoicyCareは補聴器の代わりにはなりません。会話の聞き取りを改善するアプリでもありません。できるのは、音楽再生時に音量とイコライザーで「聞こえ方」を自分好みに調整することです。広告なし・課金なし・通信不要のオフラインアプリとして、シンプルに作っています。補聴器とアプリの違いを知りたい方は補聴器 vs 音量増幅アプリ:違いと使い分けガイドをご覧ください。

UDトーク

日本発のコミュニケーション支援アプリです。対面の会話をリアルタイムで文字に変換します。自治体の窓口や医療機関で導入実績が多く、日本語の認識に強いのが特長です。多言語翻訳も搭載しています。無料版でも基本機能は使えますが、法人向けに有料プランも提供されています。

Google音声文字変換(Live Transcribe)

前述のAndroid標準機能としても紹介しましたが、独立アプリとしてGoogle Playからもインストールできます。完全無料で、80以上の言語に対応。リバースモードで双方向のテキストコミュニケーションができるのが強みです。ただしAndroid専用で、iOS版はありません。

Otter.ai

英語の文字起こしに強いサービスです。話者識別やAI要約など高度な機能を備えています。Zoom・Google Meet・Microsoft Teamsとの連携もあり、英語のオンライン会議が多い方には有用です。日本語対応は限定的なので、日本語メインの方はUDトークのほうが現実的です。無料プランには月間の利用時間制限があります。

Sound Alert

環境音を検知して通知するアプリです。iPhoneのサウンド認識と似ていますが、自分で特定の音を登録して検知させることも可能です。Apple Watchとの連携で手首の振動でも通知を受け取れます。

実際の活用場面

音楽を聴く

難聴があっても音楽を楽しんでいる方は多くいます。聞こえ方は人それぞれなので、自分に合った調整方法を見つけることが大切です。

iPhoneのヘッドフォン調整は対応イヤホンがあれば手軽に試せます。VoicyCareのイコライザーは、たとえば高音域が聞こえにくい場合に該当する帯域をブーストすることで、歌詞やメロディが聞き取りやすくなることがあります。A-Bリピート機能で聞き取りにくい部分だけを繰り返し再生することもできます。VoicyCare以外の無料アプリも含めた比較は音量増幅アプリ無料おすすめ5選で紹介しています。

ただし、音量を上げすぎると残存聴力に悪影響を与えるリスクがあります。イヤホンの長時間使用にも注意が必要です。耳鼻咽喉科の医師に相談しながら、無理のない範囲で楽しんでください。

VoicyCareの再生画面 - 聴覚障害者に配慮した音楽再生アプリ
VoicyCareのA-Bリピート機能 - 聞き取りにくい部分を繰り返し再生

電話・ビデオ通話

電話は聴覚障害者にとってハードルの高い手段です。これはテクノロジーだけでは完全に解決できない問題ですが、いくつかの選択肢があります。

FaceTimeやLINEビデオ通話では手話でやりとりできます。ライブキャプション(iPhone)やLive Caption(Android)を有効にしておけば、相手の発言がテキスト化されるので補助になります。ただし、リアルタイム字幕の精度は完璧ではないため、重要な内容は文字ベース(チャットやメール)で確認するのが安全です。

2021年7月に「聴覚障害者等による電話の利用の円滑化に関する法律」に基づき、電話リレーサービスが公共インフラとして開始されました。通訳オペレーターが手話や文字を音声に変換し、一般の電話番号に発信できます。登録者は2025年3月時点で1万7千人を超えています。スマートフォンのアプリから利用可能で、緊急通報(110番・119番)にも対応しています。

動画の字幕

YouTubeの自動字幕は日本語にも対応しており、精度は年々向上しています。AndroidのLive Captionを使えば、字幕のない動画にもリアルタイムで字幕を付けられます。

ただし、自動生成の字幕には誤変換がつきものです。固有名詞や専門用語は特に間違いやすいため、正確な情報が必要な場面では公式の字幕付きコンテンツや文字情報を優先してください。Netflix、TVerなどでは公式字幕付きの番組が増えています。

緊急時・災害時

災害時の情報取得は命に関わります。スマートフォンの緊急速報メール(Jアラート・エリアメール)は振動と画面表示で通知されるため、音が聞こえなくても受け取れます。

Yahoo!防災速報やNHKニュース防災アプリを入れておけば、プッシュ通知とテキストで避難情報を確認できます。サウンド認識(iPhone)や音検知通知(Android)を有効にしておけば、就寝中に火災報知器が鳴った場合もスマートフォンの振動で気づける可能性があります。

ただし、スマートフォンの充電切れや通信障害もありえます。視覚的な避難誘導灯の位置確認や、近隣との日頃のコミュニケーションなど、テクノロジー以外の備えも合わせて大切にしてください。

スマホ選びで確認したいこと

  • アクセシビリティ機能の対応状況:iPhoneは全モデルで同じアクセシビリティ機能が使えます。Androidは機種によって差があり、Google Pixelが最も揃っています。購入前にメーカーのアクセシビリティ情報ページを確認してください
  • 補聴器との接続:補聴器を使っている方は、Made for iPhone対応またはASHA(Audio Streaming for Hearing Aids)対応の端末を選ぶと、通話や音楽を補聴器に直接送れます
  • 振動の強さ:通知音に頼れない場合、バイブレーションの強さが重要です。可能なら店頭で実機を試してください
  • 画面サイズ:字幕やテキスト変換を多用するなら、大きめのディスプレイが読みやすくて快適です
  • スマートウォッチとの連携:Apple WatchやWear OS対応スマートウォッチがあると、手首の振動で通知を受け取れます。スマートフォンがバッグの中でも通知に気づけます

VoicyCareを試してみませんか

音量最大200%増幅・5バンドイコライザー搭載の無料音楽プレイヤーです。広告なし・課金なし。音楽の聞こえ方を自分で調整できます。補聴器の代わりにはなりませんが、好きな曲をもう少し聞きやすくしたい方の一つの選択肢として。

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まとめ

iPhone・Androidのアクセシビリティ機能は、聴覚に困りごとのある方の生活を部分的にサポートしてくれます。

  • iPhone:ヘッドフォン調整、ライブキャプション、サウンド認識、LEDフラッシュ通知、モノラルオーディオ、MFi補聴器対応が「設定 > アクセシビリティ」にまとまっている
  • Android:音声文字変換、自動字幕起こし、音検知通知、Sound Amplifier、フラッシュ通知が「設定 > ユーザー補助」から利用可能(機種により差あり)
  • アプリ:用途によってUDトーク(日本語の文字起こし)、VoicyCare(音楽の音量・音質調整)、Sound Alert(環境音検知)などを使い分ける
  • 限界:自動字幕の誤認識、サウンド認識の誤検知、通信障害時の利用不可など、テクノロジーには限界がある。過信せず、複数の手段を組み合わせることが大切

まずは今使っているスマートフォンのアクセシビリティ設定を開いてみてください。使ったことのない機能があるかもしれません。すべてを一度に設定する必要はなく、自分に必要なものから一つずつ試していくのがよいと思います。シニア世代の方がスマホで音楽を始める際の具体的なアプリ選びについては高齢者向けスマホ音楽アプリおすすめガイドもあわせてどうぞ。